特別助教からのメッセージ

~ キャリアを切り開くため 様々な活動にトライ ~

創成研究機構・北方生物圏フィールド科学センター 生物生産研究農場
研究分野: 園芸学、植物育種
アンビシャス特別助教 / 2022年度採用
中野 有紗

 

腰を据えて研究を進め キャリアを模索

博士後期課程で確立した植物材料などの実験環境を使って研究を継続したかったので、学位取得後は専門研究員として研究室に残ろうと考えていました。そんな折、特別助教の公募を指導教員から紹介していただき、同じ研究室で引き続き研究ができることに魅力を感じて応募しました。本制度がアカデミア以外の多様なキャリアパスを視野に入れた人材育成を掲げていることも、今後の進路を思案中だった私には心強かったです。

三倍性の胚乳に注目し新しい育種の手法を開拓

ヒトを含め多くの生物は、細胞に2セットの染色体組を持つ二倍体です。一方、植物の中には染色体組を3セット以上持つ「倍数体」があり、倍数体には花・果実・葉のサイズが大きい、病気に強いなど、園芸的に有用な特徴があります。特に三倍体は種無しとなるため植物育種に広く利用されています。三倍体の人為的な作出は、コルヒチンなどを処理して倍加させた四倍体と二倍体を交配し三倍体の種子を採取する方法が一般的です。私は、多くの被子植物において種子内の組織である「胚乳」が三倍性であることに注目し、胚乳組織を培養することで三倍体を二倍体どうしの交配から作出できる「胚乳培養」に取り組んでいます。胚乳培養は従来法よりも短期間での三倍体作出を可能にし、植物育種をスピーディーにすることが期待されます。私は、胚乳培養による植物体再生を誘導する条件や応用可能性を明らかにしていくことで新しい育種の手法を「開拓」したいと考えています。

 

 

研究者自身が発信することで新技術への不安を解消したい

研究に関しては、学生時代に基礎となる胚乳培養系を開発することができたので、特別助教の任期中には育種などへの応用方法を模索したいですね。同時に、農業関係者や消費者の方達にこの技術を発信するアウトリーチにも取り組みたいです。今年度、L-Stationで開催されたクラウドファンディングの説明会に参加して、アウトリーチの方法として興味を持ちました。バナナや種無しスイカなど倍数性に起因する種無し形質は、実は身近なものです。これまでに柿やビワなど倍数性を利用した種無し品種も育成されています。しかし、品種育成の過程を日常生活で目にする機会は稀であり、種無し形質を不安に感じられる方もいるのではないでしょうか。私の研究は育種手法の開発であり基礎的なものではありますが、アウトリーチを通して植物育種に対する理解を促し、今後胚乳培養を利用して品種育成した植物を過度な不安なく受け入れてもらえる社会を作る一助になるのではと期待しています。

 

精神的な余裕を持ち「何事も経験」の1年に

十分な研究費が支給されたことで、今年度は研究に集中しながらも、研究以外の活動に挑戦する精神的な余裕も生まれ、実り多い1年となりました。北大の「DX博士人材フェローシップ」のイベント「第1回 博士学生のための異分野交流会」には実行委員として参加し、企画の立ち上げや当日のイレギュラーへの対応などを経験して裏方の大変さを知りました。初めてのことにも自力で対応しなければならない状況は大変ではあるものの、実践的にスキルを身につける機会と捉え、特別助教のさまざまな業務を通して今後のキャリアを見定めていきたいです。