アンビシャステニュアトラック教員の北島 正章 准教授らの研究グループが、研究成果を発表しました

2023年4月3日
  • プレスリリース

ポイント

●下水中ウイルスの高感度検出技術(EPISENSTM法)はインフルエンザ・RSウイルスにも適用可能。
●COVID-19流行前からの下水中インフルエンザ・RSウイルス濃度の変動を遡及型調査により解明。
●「下水バンク」の概念を提唱し、集団レベルの公衆衛生情報アーカイブとしての有用性を実証。

概要

工学研究院の北島正章准教授、同大学院工学院修士課程の安藤宏紀氏らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前から継続的に採取・保存した下水試料中のウイルス検出に基づく遡及型の下水疫学調査により、COVID-19流行が他のウイルス性呼吸器感染症(季節性インフルエンザとRSウイルス感染症)に与えた影響を可視化することに成功しました。

5類感染症に分類される呼吸器感染症である季節性インフルエンザやRSウイルス感染症は、定点報告により感染流行状況が把握されていますが、COVID-19流行開始後は検査の逼迫や受診行動の変化などの要因により真の流行実態が把握しにくくなっている可能性があります。

そこで研究グループは、下水中ウイルスの高感度検出法であるEPISENS-M法(関連するプレスリリース③)により、2018年10月から2023年1月までの4年以上にわたって札幌市にて採取し冷凍保存していた流入下水試料からのA型インフルエンザウイルス及びRSウイルスの検出調査を実施しました。その結果、COVID-19流行前の下水からはこれらのウイルスが高頻度に検出されたのに対してCOVID-19流行開始後は検出率が激減し、COVID-19対策の副次的効果によりインフルエンザ及びRSウイルス感染症が抑制されたことが裏付けられました。

本研究成果は、集団レベルの公衆衛生・疫学情報を含む下水を定期的に採取し凍結保存することにより過去の感染状況の解明を可能にする「下水バンク」の概念を提唱するとともに、実証するものであると言えます。下水疫学調査はCOVID-19流行開始後にその流行状況を把握するためのツールとして社会的に大きな期待と注目を集めてきましたが、本研究で新たに実証した「下水バンク」は、ポストコロナ社会における集団レベルの公衆衛生情報アーカイブとしての活用が期待されます。

なお、本研究成果は、2023年3月8日(水)公開のScience of the Total Environment誌にオンライン掲載されました。

論文名:Impact of the COVID-19 pandemic on the prevalence of influenza A and respiratory syncytial viruses elucidated by wastewater-based epidemiology(下水疫学調査により解明された、COVID-19パンデミックがA型インフルエンザウイルス及びRSウイルスの流行に与えたインパクト
URL:https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2023.162694

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