研究概要
映画制作にはたくさんの人が関わります。監督をはじめ、脚本家、カメラマンや編集者といったスタッフ、キャラクターを演じる役者、さらにはお金を出資するプロデューサーなどなど。こうした複数の人間の共同作業のうえで成り立っている映画作品の「作者」とはいったい誰なのでしょうか?小説や絵画などであれば、その作品を実際に書いた人が「作者」と呼ばれるわけですが、映画は必ずしも監督ひとりが作品のすべてをコントロールできるわけではありません。にもかかわらず私たちは、映画作品の責任の所在をしばしば監督というポジションに還元しがちです。
「監督こそが映画の作者である」という考え方は、実は1950年代前後のフランスにおいて生まれたものです。当時、映画はまだ芸術というよりもただの娯楽だと考えられていたため、映画を伝統的な芸術と同等の地位に押し上げるために批評家や制作者たちが「作家主義」という運動を立ち上げました。監督というひとりの人間が複数の人々を動かすとはどのような作業なのか、複数の人々によって作られた作品をひとりの人間が背負うとはどのようなことなのか。このような複雑な問いに、当時の批評家や制作者は各々の活動を通じて取り組んでいました。映画芸術における「作家」概念が形成される背景にあった、そのような批評と制作のダイナミックな関係を解き明かすことを目指して研究をしています。